ジークフリート:バイロイト音楽祭

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JUL 2024 Next

ジークフリート
「ニーベルングの指環」第2夜


作曲:リヒャルト・ワーグナー


初演:1876年8月16日 バイロイト、祝祭劇場

台本:作曲者ワーグナー自身による(ドイツ語)


あらすじ


時と場所:神話の時代、ライン川近くの森と岩山

第1幕

森の中の洞窟。

第1場:ニーベルング族の年老いたミーメが鍛冶仕事をしながら、砕けた剣ノートゥングを鍛え直すことができずに嘆いている。そこへジークフリートが森から帰ってきて、ミーメに熊をけしかけ暴力を振るう。育ての親のミーメは息子の恩知らずに愚痴をこぼすが、ジークフリートはミーメから力づくで実の両親のことを聞き出すと、ふたたび出て行ってしまう。

第2場:入れ替わりに「さすらい人」と名乗る旅人姿の老人が現れ、ミーメと首を賭けて問答を交わす。さすらい人はミーメの「地底、地上、天上に住む種族はそれぞれ何か」という問いに、「ニーベルング族、巨人族、神々」と順々にあっさりと答える。ミーメは問答のうちに、さすらい人の正体がヴォータンであることに気づく。一方ミーメは、さすらい人のヴェルズング族、剣ノートゥングについての問いにはやすやすと答えて得意になるが、「ノートゥングは誰が鍛えるのか」という最後の問いに答えることができずにうろたえるが、さすらい人は「それは怖れを知らぬ者だ」と答え、「おまえの首は怖れを知らぬ者に委ねよう」と言い残して去る。

第3場:戻ってきたジークフリートにミーメが「怖れ」を教えようとするが、彼は一向にそれを理解しない。ジークフリートは、いつまでも剣を鍛えることができないミーメに業を煮やし、まったく自己流で超人的な仕事を始める。その間、ミーメは毒汁を煮込んでいる。ミーメはひそかにジークフリートを使って、大蛇に変身したファーフナーが所有するニーベルングの指環と黄金を奪い取ろうとたくらんでいるのである。こうして、ついにノートゥングは再生した。権力奪取の妄想に酔い痴れるミーメ。ジークフリートが力いっぱいノートゥングを振り下ろすと鉄床は真っ二つに割れてしまう。


第2幕

森の奥

第1場:アルベリヒがファーフナーのいる洞窟ナイトヘーレの方をうかがっていると、さすらい人が馬に乗ってやってくる。アルベリヒは、さすらい人の正体を見抜き、自分から指環と黄金を強奪したヴォータンをなじるが、傍観者を決め込むさすらい人は取り合わない。さすらい人は森の奥で眠っている大蛇ファーフナーに呼びかけ、差し迫っている危機を警告するが、ファーフナーはこれを相手にせず、怠惰に眠り続ける。ヴォータンの意図を図りかねて不審に思っているアルベリヒに、さすらい人は「何事にも、それぞれの流儀がある。それを変えることはできないぞ」と、意味深長な言葉を残して馬で走り去る。

第2場:ジークフリートが「怖れ」を学ぶために、ミーメに連れられてやってくる。ミーメは、ジークフリートとファーフナーが共倒れになることをひそかに願って、一旦その場を退く。ひとり森に残ったジークフリートは、亡き母親への想いにひたる。小鳥の声に魅せられて角笛を吹いていると、大蛇のファーフナーが目を覚まし、ジークフリートと格闘になるが、ノートゥングの一突きで倒される。ジークフリートが剣についた血をなめると小鳥の言葉がわかるようになった。

第3場:アルベリヒとミーメの激しい口げんか。ミーメはアルベリヒに妥協案を持ち出すが、アルベリヒはミーメを信用せず、これを拒否。両者は物別れに終わる。森の小鳥はジークフリートに、ミーメに警戒するよう警告する。ミーメはジークフリートを毒殺しようと試みるが、返り討ちにあってしまう。アルベリヒの高笑いが聞こえる。ジークフリートは指環を手に入れ、小鳥の忠告に従ってブリュンヒルデが眠る岩山を目指す。


第3幕

荒涼とした岩山

第1場:さすらい人が女神エールダの眠りを覚まし、神々の運命について尋ねる。エールダはヴォータンが身勝手を非難するが、ヴォータンはジークフリートへの期待を楽観的に語る。望んだ答えを与えてくれなかったエールダをヴォータンは再び大地の底へ下がらせ眠らせる。

第2場:そこへ森の小鳥に導かれたジークフリートがやってくるが、さすらい人の正体を知らないジークフリートはヴォータンを邪魔者扱いする。最初は余裕をもって接していたヴォータンも、ジークフリートの無礼な態度に不機嫌になってきて、自分がノートゥングを砕いたことを口にする。そのため、この老人が父の仇だと思い込んだジークフリートは、行く手をふさいだヴォータンの槍を一撃で叩き折ってしまう。ヴォータンは自分の力が衰えたことを悟りながらも、孫の力に満足して姿を消す。

第3場:ジークフリートが燃え盛る炎の中に飛び込み、炎を輪をくぐり抜けると、そこには盾におおわれ鎧を着た人間が横たわっていた。その鎧を外して、生れて初めて人間の女性の姿を見たジークフリートは「怖れ」というものを知って動揺する。気を落ち着かせて接吻すると、ブリュンヒルデは長い眠りから目を覚ます。彼女はジークフリートが自分を目覚めさせてくれたことを喜ぶが、神性を剥奪され無力な身になったことを思い出すと急に不安に襲われる。しかし、ジークフリートの天真爛漫な求愛に心を動かされ、ついに歓喜の声を上げて彼の腕の中に飛び込む。(幕)

プログラムとキャスト

<スタッフ・キャスト>

 

指揮:Pietari Inkinen

演出:Valentin Schwarz

舞台装置:Andrea Cozzi

衣装:Andy-Besuch

脚色:Konrad Kuhn

照明:Reinhard Traub

 

ジークフリート:Andreas Schager

ミーメ:Arnold Bezuyen

さすらい人:Tomasz Konieczny

アルベリヒ:Olafur Sigurdarson

ファフナー:Tobias Kehrer

エルダ:Okka von der Damerau

ブリュンヒルデ:Daniela Köhler

森の小鳥:N.N.

バイロイト音楽祭

バイロイト音楽祭(独: Bayreuther Festspiele)は、ドイツ連邦バイエルン州北部フランケン地方にある小都市バイロイトのバイロイト祝祭劇場で毎年7月から8月にかけて行われる、ワーグナーの歌劇・楽劇を演目とする音楽祭である。別名リヒャルト・ワーグナー音楽祭(Richard-Wagner-Festspiele)。

「バイロイトの第九」から現在まで

戦後、ヒトラー崇拝を止めなかったウィニフレッドを追放し、ヴィーラント・ワーグナー、ヴォルフガング・ワーグナーの兄弟が音楽祭を支えることとなり、バイロイトの民主化が一応なされた。1951年7月29日、フルトヴェングラー指揮の「第九」(そのライヴ録音が名盤として名高い)で音楽祭は再開された。再開後初出演したのはクナッパーツブッシュ(クナ)とカラヤンで あった。再開されたとはいえ、音楽祭はなお資金不足が深刻であった。苦肉の策でヴィーラントらは、最低限の簡素なセットに照明を巧みに当てて暗示的に舞台 背景を表現するという、新機軸の舞台を考案する。舞台稽古初日、舞台を見回したクナは愕然とする事になる。いまだにセットが準備されていないのだと思い込 み、「何だ、舞台がまだ空っぽじゃないか!」と怒鳴ったという。しかしこの資金不足の賜物であった「空っぽ」な舞台こそが、カール・ベームの新即物主義的な演奏とともに戦後のヨーロッパ・オペラ界を長らく席巻する事になる「新バイロイト様式」の始まりであった。

事情が事情であったが、指揮者のクナやカラヤンはこの演出に大いに不満であり、カラヤンは翌1952年限りでバイロイトを去ってしまった。クナもそうするつもりであったが、1953年の音楽祭に出演し、以降の出演も約束されていたクレメンス・クラウスが1954年に急死してしまった。慌てたヴィーラントとヴォルフガングはクナに詫びを入れ、音楽祭に呼び戻した。以降、亡くなる前年の1964年までクナはバイロイトの音楽面での主柱となった。「新バイロイト様式」の舞台は、ヴィーラントとヴォルフガングが交互に演出しながら1973年まで続いた。1955年には初のベルギー人指揮者として、ドイツ物も巧みに指揮したアンドレ・クリュイタンスが初出演。また、同年ヨーゼフ・カイルベルトが指揮した『ニーベルングの指輪』は英デッカにより全曲録音され、これが、世界初のステレオ全曲録音となった。1957年にはヴォルフガング・サヴァリッシュが当時の最年少記録(34歳)を打ち立てた。1960年には初のアメリカ人指揮者ロリン・マゼールが、史上最年少記録の更新(30歳)を果たして初出演した。1962年には巨匠カール・ベームが、1966年にはブーレーズが、1974年にはカルロス・クライバーがそれぞれ初出演した。演出の方も、1966年にヴィーラントが亡くなってからは弟のヴォルフガングが総監督の職を引き継いだ。ヴィーラント亡き後、ヴィーラントの遺族とヴォルフガング一家が互いの取り巻きを交えての内紛に明け暮れ、そのスキャンダルも相まって、同族運営が大きな批判に晒されるようになったことから、1973年、リヒャルト・ワーグナー財団に運営が移管された。同財団の運営権はドイツ連邦政府、バイエルン州政府に最大の権限があり、次いでワーグナー家、バイロイト市、ワーグナー協会の順になっている。

1976年、ヴォルフガングは革新的な上演をもくろみ、音楽祭創立100周年の記念すべき『指環』の上演を、指揮者ピエール・ブーレーズと演出家パトリス・シェローの フランス人コンビに委ねた。シェローは気心知れた舞台担当や衣装担当を引き連れて、「ワーグナー上演の新しい一里塚」を打ち建てるつもりだったが、その斬 新な読み替え演出は物議を醸した。しかし初年度はブーレーズのフォルテを忌避するフランス的音楽作りともども、激しいブーイングと批判中傷にさらされてし まい、警備のために警察まで出動するという未曾有のスキャンダルになった。だがシェローは年毎に演出へ微修正を施し、ブーレーズの指揮も見る見る熟練して いったおかげもあり、最終年の1980年には非常に洗練された画期的舞台として、絶賛を浴びることとなった。

その後指揮者の顔ぶれは、レヴァインやジュゼッペ・シノーポリ、ダニエル・バレンボイムなどの若手や初のロシア人指揮者ヴァルデマル・ネルソンなど新しい顔ぶれに様変わりした。 2005年には東洋人として初めて大植英次が初出演を果たす。しかし、オペラ経験に乏しい大植の指揮は観客の不興を買い、1年で契約を打ち切られることとなった。翌年から『トリスタン』の指揮はベテランのペーター・シュナイダーに委ねられる。大植の降板劇は特に人種差別的なものではなく、過去の幾人かの指揮者にも起こった事態でもある。ヴィーラントと決裂してバイロイトを去ったカラヤンや、マゼールの先例もあり、ショルティやエッシェンバッハらも1年で降板している。バイロイトに限らず音楽祭での降板や変更は日常茶飯事であるものの、近年のバイロイトでは(かつてのブーレーズの頃とは違い)指揮者が激しい批判を浴びた場合、守るよりも手っ取り早く熟練した指揮者と交代させられるケースが増えてきている。

そのような中、2000年に『マイスタージンガー』を振ったクリスティアン・ティーレマンは久々の大型ワーグナー指揮者の登場として高い評価を獲得した。2006年からは『指環』の指揮を任され、音楽祭の音楽面の中核的存在となっている。

演出面では、シェロー演出の成功以降、ゲッツ・フリードリヒ、ハリー・クプファーらが舞台に現代社会の政治状況を投影する手法で新風を吹き込んだ。だが以降はこれといった新機軸を確立するまでには至っておらず、逆に目新しい演出へいたずらに走る傾向を「商業的」として非難する向きもある。近年ではキース・ウォーナーやユルゲン・フリムらが一定の評価を得た反面、クリストフ・シュリンゲンズィーフによる『パルジファル』のように否定一方の不評のままで終わる演出もある。

なお視覚面では、劇作家ハイナー・ミュラー演出の『トリスタンとイゾルデ』で、日本人デザイナー山本耀司が衣装を担当し、大きな話題になった。

総監督はカタリーナ・ワーグナーとエファ・ワーグナー(2009年)

戦後、長年に渡って音楽祭を独裁的に切り盛りしてきたヴォルフガング・ワーグナーがついに引退を表明し、後任を巡ってその去就が注目されていたが、先のように2009年からは彼の二人の娘が総監督の座を引き継ぐ事になった。現在はカタリーナ・ワーグナーとエファ・ワーグナーの二頭体制に移行した。

ただし、二人は姉妹とはいうもののヴォルフガングの前妻の娘と後妻の娘という腹違いの複雑な関係であり、しかも33歳差という年齢差ゆえに必ずしも 親密な関係とは言いがたいようだ。当初2001年にヴォルフガングが引退を表明し、後継者として指名されたのは長年『影の支配者』と云われていた後妻のグ ドルンだったがワーグナー財団によって否決され、ヴォルフガングは引退を撤回したという経緯があった。そして後継者レースの中で経験が少なく、若さやルッ クスのような話題などメディアを意識した挑発行為が目立つカタリーナへの疑問や、グドルンによってバイロイトを前妻とともに追われたエファがヴォルフガン グによって追放されたヴィーラントの娘ニーケ・ワーグナーと 組んで、カタリーナと舌戦を繰り広げるという格好のスキャンダルをメディアに提供するなど、非常に険悪だったかつてのヴィーラントとヴォルフガング兄弟の 骨肉の争いの再来ぶりに、先行きを危ぶむ声も多い。早速カタリーナは、2007年の新演出の『マイスタージンガー』の演出を自ら手掛け存在感をアピールし た。しかし、その挑発的な舞台は一部の観客からブーイングを浴び、批評家やマスコミの間でも物議を醸した。

翌年の2008年からは、舞台中継のネットでの映像ストリーミング配信や会場外でのパブリックビューイングが カタリーナの肝入りにより始められた(2008年は『マイスタージンガー』、2009年は『トリスタンとイゾルデ』が生中継された)。これにより、会場外 の観客や世界各国のインターネット・ワグネリアンたちにもこれまで以上に音楽祭の雰囲気を楽しむことが出来るようになり、代変わりしたバイロイトらしい新 機軸として評判になった。

そしてヴォルフガングが死去してから初めての音楽祭となる2010年、ついにテレビでの生中継が実現する運びとなる(後述)。翌2011年の第100回目の開催では、ユダヤとの関係改善を目論むカタリーナの計らいでイスラエル室内管弦楽団がバイロイトを訪れ、市内のホールにてロベルト・パーテルノストロの指揮によりジークフリート牧歌を演奏した。この年の初日の演目は新演出の『タンホイザー』。メルケル独首相やトリシェ欧州中央銀行(ECB)総裁夫妻ら、著名人が訪れた。

 

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